名古屋高等裁判所 昭和25年(う)2216号 判決
起訴状の犯罪事実として、「被告人は、昭和二十五年一月六日頃、自宅その他において、被保険者伊佐次静夫保険金受取人伊佐次君子に支払わるべき生命保険金二万二千五百十円を業務上保管中、生活費その他に費消横領した」とあつて業務上横領の訴因が記載せられていたところ、検察官は、原審第五回公判期日において、「被告人は、滝野某等と共謀の上、明治生命保険相互会社の被保険者伊佐次静夫が死亡し継続して保険料が支払われていなかつたため、失効となり、保険金受取人伊佐次君子が保険金を受取るべき資格がないのに拘らず、昭和二十五年一月六日頃、右会社に対し、保険料を継続して支払つてあり、保険金を受取るべき資格があるように装つて、その旨右会社係員を誤信せしめ、右会社係員より、右保険金名下に現金五万百五十円の交付を受けて、これを騙取し」と詐欺罪の訴因に予備的変更を為し、原判決は、右詐欺罪を有罪と認定したことは、所論の通りである。而して右訴因の予備的変更は、言葉の使い方の誤りで、実質は、訴因の予備的追加と認めねばならぬことも、所論の通りである。数個の訴因及び罰条を起訴状に予備的に記載することは認められて居り、更に公判進行中、検察官が訴因を追加することもでき、右追加の結果、最初から訴因が予備的に記載せられたのと全く同一になることも、適法であつて、右のように訴因が予備的に記載又は追加せられたときは、一個の訴因について有罪と認められるときは、その部分についてのみ、判決に判断を示せば足るものであつて、有罪と認定せられなかつた他の訴因について、特に無罪の判断を示す要なきものと解すべきである。予備的に訴因が記載せられているとき、その数個の訴因の中、一個の訴因につき、有罪と認定せらるれば、他の訴因については、当然無罪の判断が為されたものであることは、明白であるから、これをわざわざ判決に明示するの要はない。従つて原審が業務上横領或は詐欺と予備的に訴因が追加されたのは、詐欺罪についてのみ有罪と判示したのは、正当で、論旨は、理由がない。